『織花』
その名前に、胸がぎゅうっと痛んだ。
「ーえ、熱?
…分かった、ちょっと待ってろ」
電話を切った朝比奈先輩は、小さく溜息を吐く。
「悪い、織花が急に熱出したらしいから帰るわ。
アイツ、今家に1人なんだ」
「あ、はい!」
「送っていくけど、家どこ?」
暗くなって人通りもない道を見て、朝比奈先輩は気を使ってくれる。
「大丈夫なので、早く行ってください」
熱が出て、家に1人なんて心細いだろう。
気を付けて帰れよ、と言って走っていく朝比奈先輩の背中は、
やっぱり私を振り返らなかった。
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