織花は、何も言わない。
話の内容が何なのかは、だいたい分かっていたみたいに。
静かに下を向いて、しばらくしてやっと口を開いた。
「…あの子のせいなの?」
あの子?
思い当たったのは1人だけ。
ミルクティー色のふわっとした髪を思い浮かべて、違うよ、と首を振った。
「何で、今のままじゃダメなの?
私のことが面倒になったの?」
「違う」
「じゃあなんで…っ」
織花の瞳に、涙が溜まる。
…俺が、泣かせたくなかった。
織花はいつも大人たちのせいで泣いていたから。
だから俺だけは、織花を泣かせたくはなかったのに。



