理生くん、って、呼んでた。
誰にも、友達にも呼ばせないその名前を、彼女は自然に口にした。
それはきっと、そういうことで。
こんな形で、知りたくなかった。
彼女がいるって、言われた方がまだマシだった。
直接この目で見てしまったら、もう自分を誤魔化すことすらできなくて。
あんなに可愛い子だったら、勝ち目なんてないし。
あんなに守ってあげたくなるような女の子から、奪うことなんて絶対に出来ないし。
あんなに優しく、だけど同時に少し切なく笑う朝比奈先輩、初めて見たし。
あの子は私の知らない朝比奈先輩をたくさん知ってて。
そして、私の見たことがない表情もたくさん見てて。
私の呼んだことがない名前で、彼を呼ぶんだ。



