…やっぱり、声をかけたい。 彼女がいるとかいないとか、よく分からないけど。 でも、私と朝比奈先輩が2人で過ごした時間だって本物なんだ。 前よりはずっと、私に心を開いてくれた朝比奈先輩。 そのわずかなチャンスをここで、手放したくはないから。 そう思って足を踏み出した瞬間ーー…。 「…理生くん!」 鼻にかかった、可愛い声。 『理生くん』 彼が絶対に人に呼ばせないその名前は、初夏の蒸し暑い風に乗って私の耳まで届いた。