「ありがとう、ございます…。」


視界がぼやけて、自然に涙が溢れた。久しぶりだった、私の名前を好きだって言ってくれたの。


「え、ちょ…!泣き止んでー!」


先輩はオロオロして、ポケットからティッシュを取り出した。そして私に、優しく笑う。


「音希ちゃん、笑ってよ」



ずるい、凄く。そんなに優しく言われたら余計に涙が出る。地面に染みができる。ポタポタ、黒く黒く。

だけど、私の心は反比例するように白く白く真っ白になっていった。


「先輩、ありがとうございます」


高校生活、初めて笑えた瞬間かもしれない。そう、心から思えた。



「…いーえ!」


白い歯を見せて元気に笑った先輩。その笑顔を見るだけでいつのまにか私の心の中の穴は塞がっていた。