溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

「花音」
とふいに昌磨に呼びかけられる。

 はい? と見上げると、
「呑んでないじゃないか」
と言われた。

「ああ、そうなんですよ。
 なんだか今日は眠くて。

 呑んだら、気持ちよく寝ちゃいそうなので。

 集中して、昌磨さんのピアノ、聴きたいから」

「一杯奢ってやると言ったのに」
と言ってくるので、

「また今度お願いします」
と笑った。

「なんで眠いの、花音さん」
と良が訊いてくる。

 花音は眠い頭を支えるように、こめかみに人差し指を当て、

「いやー、お兄ちゃんが帰ってきてて、夜中まで、花札付き合わされちゃってさ」
と言った。

「兄妹で花札なんて、仲良いね」

 いや、いいんだか悪いんだか。

 子供のときのまま、気に食わないことがあると、どつかれるし。

「そっかー。
 眠いんなら仕方ないけど。

 お酒呑んで、ふんわりいい気持ちで聴くのもまた最高だよね」

「よしよしくん、私を悪の道に引きずり込まないでよ〜」

「別に悪じゃないじゃん。
 寝なけりゃいいだけだよ」

 ほら、なんにする?
と良が笑顔で、酒の名前の並んだ小さなメニューを向けてきた。