溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

「昨日さ、例の老夫婦がまた来たんだよ。

 日本を発つ前に、昌磨さんのピアノをもう一度聴きたいって。

 今日は昌磨さん居ないんだって言ったら、すごい残念がってた」

 日本に来たら、また立ち寄るって言ってたよ、と良は言う。

 そういえば、いつもあまり表情が変わらない昌磨だが、言われてみれば、嬉しそうにも見える。

 昌磨が雑誌のページをめくる手を止め、
「……花音。
 なに見てるんだ」
と迷惑そうに言ってくる。

 思わず、身を乗り出して、昌磨の表情を窺っていたようだ。

「あ、花音ちゃん、いらっしゃい」

 買い出しに行ってたマスターがちょうど戻ってきたようだ。

「あれ、花音ちゃんのだったんでしょ?」

「そうなんです。
 ありがとうございます〜」

 たくさん買い物しすぎて、ひとつ、椅子の下に小さな紙袋が倒れたままになっていたことに、花音は帰ってからも気づかなかったのだ。

 夕方、開店前の掃除をしているときにマスターが気づいて、昌磨に連絡してくれたようだった。

「そういえば、此処、昼間はやってないんですね」
と花音が言うと、

「夜遅い時間までやってるからね」
と冷蔵庫に物を入れながら、マスターが言う。

「日曜の昼とかは、ギター教室とかに此処、使う人も居るしね」