溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

 彼の課の課長もやってくる。

「いや〜、芹沢くん、すまん。
 うっかりしてて」
といつもは横柄なのに、神妙に手を合わせてくる。

「今度なにか奢るから」

 いや、奢っていりません、と思いながらも
「わかりました」
と言う。

 時間が惜しい。

 話しながら、もうデータを呼び出し、打ち始めていた。

「頼むよー」
とその課長もコピー機のところに行ってしまう。

 近くの席の人が立ち上がり、手伝うと言っていた。

 他所のコピー機にも持っていこうと話しているのが聞こえる。

 相当切羽詰まってるようだな、と思った。

 何人かで打てればいいのだろうが。

 手書きの部分が結構長くて、ページの区切りが読めないからな、と計算しているうちに、1ページ目は終わっていた。

「さすが速いな」
と昌磨が横で言う。

 その声だけは、この世界には、パソコンと私だけ、という静謐な樹海に入っていた花音の魂にもはっきりと届く。

 うわーっ。
 やめてくださいっ、動揺するっ!