課長、気難しいかな。
仕事をしながら、花音は、時折、課長を観察していた。
「おっ、相変わらず、打つの速いな」
と横から隣の花村さんが言ってくる。
「今、心を無にしているからです。
今、この世界には、私と書類とパソコンしかない感じです」
嘘です。
たまに課長が居ます、と思いながら、打ち続けていると、
「芹沢」
とふいに声がした。
なにやら、魂に響く声だ、と思ったとき、キーボードの横にあの長い指が見えた。
昌磨が立っていた。
心は一気に、パソコンと私の世界から、オフィスの喧騒に引き戻される。
「芹沢、お前、打つの速いんだろ?
これ、10分で仕上げてくれ」
「10分ですか?」
と昌磨の手から渡された一部手書きの書類をめくる。
結構修正あるな。
「もうすぐ会議なのに、今頃回って来たんだ。
これ打ったら、すぐにコピーするから。
これが元のデータ」
とUSBメモリを渡される。
コピー機の前で、別の部署の同期の男の子が、すまん、と手を合わせていた。
どうやら、あっちから回ってきたものらしい。



