朝、電車で花音が大欠伸をしていると、拓海が、
「どうした?」
と訊いてきた。
「いやー、吊り革つかんで寝そう。
昨日、家に戻ってみたら、おにいちゃんが帰ってきててさ」
「ああ、彰人さん、元気か?」
うん、元気すぎ、と花音は赤べこのように惰性で首を振りながら言う。
「それでさー。
なんでだかわかんないけど、気がついたら、花札やってて。
おにいちゃん、自分が勝つまでやめないから」
出張で帰ってきたのに、大丈夫なのかな、と言うと、
「彰人さん相手に勝ち続けんなよ」
と言われる。
「頭じゃ敵わないけど、運ならポチポチ」
と笑う。
そして、周囲を見回した。
「……なに探してんだ?」
と問われ、
「ん。
課長、今日は電車じゃなんだな、と思って」
と答える。
「『しょーまさん』じゃないのか」
抑揚のない声で横目に見ながら、拓海がそう言ってきた。
「あんたに話すときは、課長でいいでしょ」
「……俺に話すときも、昌磨さんになったら危ないな」
なにが危ないのか、拓海は、そう呟く。



