溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜




 やっぱり、課長に聞こえてたのかな。

 そんなことを考えながら、ぼんやり駅のホームに立っていた花音の横にその人は立った。

 一目でわかった。

 その手を見たからだ。

 少々気障っぽい白のトレンチコートを着ていたが、それが様になっている。

 少し長髪気味で小綺麗な指先をした男の人だった。

 自分を見ている花音に気づき、
「ああ」
と微笑む。

「この間、大丈夫でしたか?」

「はい。
 その節はどうもありがとうございました」
と頭を下げたあとで、

「どっかのおじさんのお尻に張り倒されましたけど」
と花音は笑った。

 男はピアノの講師で、以前、満員電車で手を怪我して以来、あまり電車には乗らないのだと言っていた。

「私の知り合いもそうみたいです」
と言うと、男は笑う。

 手を怪我した話のとき、昌磨がなにか言いかけてやめた。

 あの話の不自然な途切れ方。

 昌磨は、満員電車で手を怪我しかけた話をしようとしたのではないか。

 その言葉を言うのをやめたのは、だから、自分は電車には乗らないんだ、という結論を話してしまいそうだったから。

「その満員電車に乗らない男って、もしかして、飛鷹昌磨?」

「え? はい」