少し離れたところから、幼なじみの沢木拓海(さわき たくみ)が覗いていた。

 この男、無駄にデカい。

 まあ、だからこちらからも見えたのだが。

「見てたんなら助けてよ」

 そう訴えてみたが、
「近寄れねえよ、こんなに混んでたら」
とすげなく返される。

「あ、お前が持ってかれてる。
 つまづいた。
 吹っ飛ばれされた……

 までは見えたんだけどな」

「……そんな克明に見ておいて、あんた」

 そうだ、と気づいて拓海に呼びかける。

「今誰かが私を助けてくれたわよね。
 私の腕を掴んで。

 拓海、誰だか見なかった?」

「さあ、見えなかったが」
と拓海は言う。

 使えない奴め。

 友人の純子(じゅんこ)などは、拓海のことを学校一格好いいなどとぬかしていたが、学校一デカい、の間違いじゃなかろうか、と思っていた。

 無事、電車を降り、並んで階段を上がりながら言う。

「拓海、私、今日、理想の人に会ったわ」

「は?」

「さっき、言ったじゃない。

 私を助けてくれた人が居たの。
 とても素敵な手だった」

「手ねえ」
と気のない声で言った拓海だったが、

「で、顔は?」
と訊いてくる。