車の中で昌磨が言う。
「お兄さんも必死なんだから、邪魔するなよ」
「いや、なにかこう、意外な感じですよ。
お兄ちゃんって、もっとこうさらっと女の人、誘えそうな感じだったんですけどね」
「本気になると難しいんじゃないか?
ところで、向こうから、沢木拓海らしき人間が歩いてくるんだが、どうしたらいいと思う?」
えっ、と見ると、なるほど、近所の書店の袋を小脇に抱えた背の高い男がやってくる。
「こうして見ると、やはり、格好いいな、沢木は」
日曜のくつろぎ方もさまになってる、と言う。
「昌磨さんほどじゃないですよ」
拓海がこちらに気づいたように見た。
どうしようかな、と迷ったあとで、やはり、こそこそするのは性に合わないと、窓を開け、
「拓海」
と呼びかける。
足を止めた拓海は、花音を飛び越し、昌磨の方を見て、軽く頭を下げる。
「さっき、昌磨さんがうちに来て……」
と言いかけると、
「知ってる」
と拓海は言った。
「ピアノの音が聞こえてきたから。
さすがにこれは、彰人さんじゃないな、と思って。
……ましてや、お前はありえないからな」
何故、どさくさ紛れに毒を吐く。
あんた、本当に私のこと、好きなのか? と思った。



