溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

「だって、なんで昌磨さんがやめなきゃならなかったんですかっ。

 あんなにピアノに情熱を持っていた子供がなんでっ」

 言いながら、泣きそうになる。

 昌磨の父親が余計なことさえしなければ、昌磨は今も表舞台で、ピアノを弾いていたかもしれないのに。

 そう言うと、昌磨は少し笑い、
『そしたら、お前とは会ってないな』
と言ってくる。

「や、やっぱりそうですよね」

 そう青ざめると、まるでこちらの顔が見えているかのような笑い方を昌磨はした。

『……俺は、今、店で弾いてるのが楽しいんだ。

 順位もなにも関係なくて、お客さんが喜んでくれて。

 この間、お前と話していた老夫婦みたいな人たちが、わざわざ忙しい合間を縫っても、俺のピアノを聴きに来てくれたり。

 そんな些細なことがなにより嬉しい。

 あのまま、コンクールに出続けていたら、今とはピアノに求めるものも、そこから目指していく場所も違ったろうなって最近は思うんだ。

 俺は今の俺も、今の俺の演奏も好きだ。

 それに、今の仕事も好きなんだ。

 時折、めちゃくちゃ手のかかる部下に出くわしたりもするけどな』

 ……うっ。