溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

「邪魔するべきか、と迷っていたら、お前が自分で跳ね除けたから、わざわざ口に出しては言わなかったんだが」

 ああ、心配するな、と彰人は言う。

「相手が情熱の貴公子なら、邪魔はしない。
 いつでも連れて来い」

 いや、邪魔されなきゃいけないようなこと、出来ないのが問題なんだけどね……と花音は思った。

「俺も部屋でもう一回ゆっくり聴こう」
と出て行こうとする彰人の背に呼びかけた。

「ねえ、お兄ちゃん。
 このときの優勝、昌磨さんだよね?」

 彰人が戸口で振り返る。

「一番すごかったの、昌磨さんだよね?」

 その言葉にどういう意味があるのか、兄はわかっているのか、いないのか。

「当たり前だろう。
 他の奴の演奏など、俺の記憶にはない」
ときっぱり言ってきた。

 いや……それもどうなんだ。

 すごく可愛がってくれていた上司の娘さんなんかも居たんだが。

 でも、今はその言葉がすごく嬉しかった。

 昌磨さんの背中を強く押してくれそうで。

 だけど……。

 ふと不安になる。

 昌磨が本気であの世界に戻ったら、もう自分の近くには居てくれないのではないだろうか。

 そう思って。