拓海と別れ、廊下を歩いていると、相変わらず、呑気そうな花音が向こうから歩いてきた。
こちらに気づき、少し赤くなって頭を下げる。
これで俺の手しか好きじゃないとか意味がわからないんだが、と思いながら話しかける。
「土曜日」
「はい?」
「弾くからまた来い」
「いっ、いきますっ」
と花音が嬉しそうに言う。
そうそう、一個増えたんだったな、と思った。
俺の『手』と『演奏』が好きなんだった。
……道のりは長い気がするな。
自分の心の葛藤と、あまりにギャッフがある花音の平和そうな表情に、思わず、花音の鼻をつまむ。
「いたたた……。
課長っ、なにやってんですかっ、拓海じゃあるまいしっ」
鼻をつままれた声で、花音が文句を言ってくる。
今、あいつと一緒にされたくないな、と思い、手を離した。



