溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

 もう自分でも思い出せない。
 昔の自分の弾き方は、どんなだったのだろう。

 花音と彼女の兄が感動したという。

 俺が思い出したくないあのコンクールでの演奏は、どんなだったのだろう。

「ちょうど花音がイタリアに行ってた頃、貴方があっちで活動してたんですね」

 まったく、ついてない、と拓海は溜息をついて見せる。

「花音はたいして弾けもしないのに、ピアノ眺めるのが好きで。

 よく楽器店の前で立ち止まっては、ピカピカのグランドピアノを眺めてた。

 あれはたぶん、無意識のうちに、貴方を思い出してたんですよ。

 それで、なんとなく、此処に就職したんじゃないですかね?」

 花音……。

「ネットに動画を上げると、いいコメントもつくけど、悪いのもつく。

 だからでしょう。

 動画を上げた人は、コメントがつけられないようにしてたし、本人も、あまり説明をつけてなかったけど。

 ああいう風に昔の映像をわざわざ出してきたってことは、貴方に戻ってきて欲しいんですよ。

 課長は……花音が好きなんですか?」

 昌磨は少し考え、
「今、そのことについて、熟考していたところだ」
と言うと、拓海は、はあ、と言う。