職場で昌磨が廊下を歩いていると、前からやってきた見覚えのある大きな男がこちらを見る。
軽く頭を下げてきた。
「ちょっと話があるんですけど。
今、よろしいですか?」
と沢木拓海は、花音とふざけているときとはまるで違う表情で言ってきた。
誰にも聞かれたくない風だったので、比較的人気のないフロアで、廊下からベランダに出る。
結構風が強かった。
「花音、昨日帰ってきてから様子がおかしいんですけど。
なにかあったんですか?
朝は朝で、貴方が迎えに来るし」
と言われ、
「やはり、そうか」
と呟くと、
「昨夜、花音になにかしようとしましたか」
と拓海は訊いてくる。
「……君は知ってるのか?」
「なにをですか?」
この男は知らないのだろうか。
花音のトラウマのことを。
ずっと側に居たのになにも知らず、聞かされてもいない、ということがあるだろうか。
そう思ったあとで、いや、ある、と思った。
ひとつだけ可能性がある。
もし、それが真実なら、花音の性格からして、絶対に彼には言わないだろうから。
「……花音のトラウマはお前だな」



