溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

 拓海はそこで、手を離して、
「あー、俺、やさしいなあ」
と言う。

「何処がっ!?」
と言ったあとで、いやまあ、やさしいか、と思った。

 今もこうしてやってきて、慰めてくれようとしている。

 言うことはいまいちやさしくないが。

「ありがとう、拓海」
と真正面から見つめて言うと、拓海は目をそらした。

「……やっぱ、俺、もう帰るわ」

 出て行きかけた拓海は振り返り、訊いてくる。

「そういえば、お前、最近、課長とよく夜出歩いてるけど、課長と、もうなんかしたか?」

 言い終わらないうちに、拓海は、うわっ、と悲鳴を上げる。

 花音は大きく息を吐いて言った。

「よかった……。
 一突きにしないだけの理性が私にあって」

 花音の手には、そこにあったペーパーナイフをつかんでいた。

「なんでそんなもん持ってんだっ!」

「この間、雑貨屋さんで買ったのよ。
 ほら、いつか一緒に行ったとこ」

 それとそれとそれもね、と指差すと、
「買い過ぎだっ。
 もうちょっと整理しろ」
と今、うっかり殺しかけた男に言われる。