溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

「いや、間違いない。
 あとで、審査員のひとりから聞いたから」

「そ、それでやめたんですか?」

「俺はそれを表沙汰にすることもなくやめた卑怯者だ。

 なんの地位も築かないまま、今、此処でやめれば、誰からも追求されることもない。
 そう思って」

「課長……」

 水を置いて、側に行った花音は、昌磨の手をそっとつかむ。

 それを眺めながら言った。

「ジャッジが買収されてようと関係ありません。
 あの日、私もおにいちゃんも貴方に感動した。

 あのいつもしらっとしたおにいちゃんが、我を忘れたように痛いほど手を叩いていたのがその証拠です。

 技術的なことは私にはわかりませんが、私たちには、貴方が優勝で間違いなかったんですよ」

「花音……」
と頬に触れてくる。

 昌磨は、キスしかけてやめた。

 花音はその胸にすがり、言った。

「私、あれから本当はずっと、男の人が怖かったのかもしれません。

 よく知ってる人が知らない人みたいになる。

 そういう瞬間が怖くて。

 ……でも、課長なら頑張ってみます」
と見上げると、昌磨は少し笑い、そっとその指で唇に触れてきた。