溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

 花音が振り返りながら訊いてくる。

「そういえば、課長、前もあそこでキスしようとしませんでした?」

「そうだったか?
 ちょうどあれだろ。

 店を出て、話してて、あの辺でお前が可愛くなってくるんだろ」

「えーと、あの、普段は……?」
という花音の声を聞きながら、電車の音を聞いていた。

「たまにはうちに来るか?」

「はい?」

「さっきの人のレコードもあるが」

「えっ。
 レコードなんですか?

 うちもお兄ちゃんが結構持ってるんですよ、レコード」

 行きたいですっ、と花音が無邪気に言ってくる。

 自分で誘っておいて、
「お前、そういう誘いに簡単に乗るなよ」
と顔をしかめると、

「えー、今のは罠なんですか?
 引っ掛け問題?」
と言ってくる。

「違う。
 俺はいいけど、他の男は駄目だと言ってるんだ」

 そうなんですか、とよくわからない風に花音は言う。

「じゃあ、電車はやめて、タクシーにしよう」

「なんでですか?」

 その方が近いから、と言いかけてやめる。

「うちに来るのには、もうひとつ、条件がある」

「はい?」