溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜

「いや、他の誰かなんて、まったく想定してないですけど。

 あれっ? 課長。

 ……課長?

 ……昌磨さんっ」

 黙って少し歩いていると、花音が焦って呼びかけてくる。

 そんなに本気で怒っているわけではないが、花音が面白いので、そのまま沈黙していた。

 するとまた、ろくでもないことを言ってくる。

「でもね、私、思ったんですよ。
 なんで、キスって、口でするんでしょうね。

 手と手でするのなら、出来るのに」

「……それはお前、握手だろ」
と言うと、

「そうなんですよっ。
 やはり、課長も気づきましたか」
と言ってくる。

 いや、誰でも気づくし。
 それから、課長に戻ってるぞ、と思ったのだが、もう突っ込むのも疲れたので言わなかった。

 ひとつ息を吸い、手を差し出す。

 え? と花音が自分を見上げた。

「手ならいいんだろ?」
と言うと、花音は赤くなり、うつむいて、

「……はい」
と嬉しそうに言った。

 ……可愛いのに、なにもしちゃ駄目とか意味がわからないが、と思いながらも、手をつないで歩く。