「なに?
 課長の心配してるの?」

「……なんでやめたのかな、と思っただけだ」

 花音はソファの背に手をかけ、兄の側にしゃがんだ。

「もしかして、お兄ちゃんも聴きたい?」

 ふいにあのとき、珍しく熱心に拍手していた彰人を思い出したので、そう訊いてみた。

 彰人は答えなかった。

「ほんと。
 課長、なんで表舞台に出なくなったんだろ?」

 そう呟くと、驚いたように、
「お前、聞いてるんじゃないのか」
と言ってくる。

「いや……」
と言うと、

「そうか。
 こういう奴だから、側に置いてるんだな」
と勝手に結論づける。

 なにか微妙に莫迦にされてる感が伝わってくるんだが……。

「ドンジャラやるか?」

 ふいに彰人はそう訊いてきた。

「もうやらないって言ったじゃん」
と言うと、彰人は起き上がり、突然、

「じゃあ、もう帰ろう」
と言い出した。

 本当に荷物を持ってくる。

「お兄ちゃん、本気でドンジャラを……」

 いや、違うか、と思った。

 今の話を聞きたかったんだ、と気づく。