うっ……

「田所君は、解りますよね?」

「桜井さんが、好きでもない男と結婚するって事だろ? しかしなあ……」

 あ、そこかあ。田所のやつ、さすがだな。

「正解です」

「でもよ、なんでだ? なんで彼女はそんな事するんだ?」

 うんうん。俺もそう思う。

「そうです。それが問題なんですが、実は桜井さんは、財閥の令嬢なんです」

「令嬢!?」

 田所とハモってしまった。ふゆみが令嬢だなんて、全然気づかなかった。そう言えばふゆみは、家の事は聞くなと言ってた。あれはそういう事だったのか……

「桜井さんは、老舗のデパートや和菓子店を傘下に持つ、桜井グループの会長の、一人娘なんですよ」

「へえー、それはびっくりだな。でもよ、なんで令嬢がOLやってんだ?」

 あ、確かに。

「それは僕にも分かりません。父親の会長は、案外寛容な人なのかも……」

「寛容な父親が、娘に政略結婚させるか?」

「確かにそうなんですが……」

 くそー、政略結婚かあ。許せんなあ。

「三浦君、どうしますか?」

「どうするもこうするも、そんなのやめさせる」

「奪いますか?」

「ああ。奪う」

「どうやって?」

はあ?

「そりゃあ、まずはふゆみと話をして……」

「桜井さんは、今週から休暇を取っています」

 あ。だから今日の同期会は欠席だったのかあ。

「年休消化か?」

 田所が言った。しかし、"年休消化"って、何だっけ?

「さすが、鋭いですね。まだ公表されてませんが、おそらく彼女は辞表を出したのだと思います。年休を消化しつつ、結婚の準備に入ったと、僕は見ています」

「どうするよ、三浦。彼女、もう会社に来ないぜ?」

「えっと……あ、ラインだ。ラインで連絡を取るよ」

 同期会でラインのグループを作っており、ラインだけが、ふゆみと連絡する唯一の手段だった。

「既読スルーでしょうね。あるいは……」

「ブロックか」

 うっ。手段なしか……

 俺が途方に暮れていたら、速水がピシッとテーブルに何かを置いた。