そして、文化祭が終わってすぐ、敦美は母の住む家に居た。

母の万須美は冬弥から話もきいていたので、敦美から話を切り出さない限り、無理に話を聞こうとはしなかった。

ときどき、ぼ~っと外を眺めているだけの敦美が不憫に思えた。


「あらあら、いくら気分がよくないからって外の空気を少しも吸わないっていうのはよくないわ。
庭先でいいから、お散歩でもしてらっしゃいな。
きっと妊娠してホルモンの状態が不安定なのね。
落ち着ける環境で、余計なことを考えないようにしないと胎教にも悪いわよ。」


「そういうもの?」


「そうよ。私もひとりになったときは不安定でしょうがなかったわ。
そんなときはひとりで、動物園に行ったり、博物館へ行ったりしなさいって近所のおばさんたちに言われてね・・・」


「そうだったんだぁ。そうよね、産むのは私だもん・・・出産経験のある先輩の意見は重要ね。
庭に出てみる。行けそうだったら、近所の公園まで行ってみるわ。」


「気をつけてね。気晴らしはいいけど、冷えは大敵よ。
いってらっしゃい。」



敦美は万須美がたくさん自分に気遣ってくれていることを知っていた。


(ほんとに聞きたいことはいろいろあるだろうに、私の体のことばかり心配してくれて。)



庭に出た敦美は外の空気のおかげで少し気分が晴れ、公園まで出かけることにした。


「出てしまえば、出られるものなのね。
ひとりでいれば、ひとりでいられるものなのかな。」


「それは違うよ。」


「えっ?」


びっくりして振り返ると享祐が目の前に立っていた。


「どうしたの?」


「心配でやってきたんだよ。
連絡をとろうといろいろ手をつくしたが、どれも拒絶されちゃったからね。
君のお母さんにひたすら謝って、ここにきてるのを教えてもらったんだ。」


「そんなことしなくたって好きなことしてればいいのに。」


「冷たいな。俺は敦美のそばにいないとずっと誤解されっぱなしになるようだ。
理性がどうのって言う必要がないらしいしね。」


「きいたの?」


「あたりまえだろ。冬弥の様子が変だったから問い詰めた。
俺のせいで普通に卒業させてあげられない・・・ごめん。」


「謝るようなことしてるんだ・・・。」


「あ、そういう意味ではないって。
あのモデルも仕事も受ける気じゃなかったのに、どうしてもって・・・仕方がなかったんだ。
あのモデルさん、妊娠して仕事をやめるから記念にってね。」


「仕事しながらだけど、こんなのも今制作してる。
これ、写真だけどね。」


敦美が手渡された写真を見ると、敦美が制服を着て笑顔でいる絵のキャンバスが写っていた。


「これ・・・」


「敦美も記念にとっておかなきゃ・・・て思ったから。
でも、細かいとこは本人を前にしないとね。」


「私は自由になりたかったのに。
ううん、私は私らしくひとりでやってみたかった。
誰にもかまわれたりせず、がんばって自分の力を試したかったのに。」


「そっか。したいことをすればいいさ。」


「どうして?どうして・・・わがままばかりして、戻ってきなさいって怒らないの?」