翌日、まだ顔も洗っていない状況の敦美のところに享祐から電話がかかってきて、これから敦美の両親のところに行くというのだ。

あわてて、出かける準備をして寮の入り口で享祐に車で拾ってもらった。


「どうしてそんなに早いの?」


「だから・・・子どもができちゃってたらさぁ・・・。」


「できてないかもしれないし。」


「それでもけじめは大切だし、これからの予定だってあるし。」


「これからの予定?」


「卒業したら北海道で2年は暮らすんだろう?
そのうちに子どもができたら休学するとして・・・」


「ねぇ、どうして享祐さんが私の予定をすべて決めちゃうの?」



「俺は決めてない。君が決めてたことに現実をのせてみただけだ。」


「ここで、普通に大学受験して農学部でがんばるって選択肢もあるじゃない。」


「それでいいのかい?」



「いいっていうか、そうしなきゃいけない場合もあるんじゃないかって思っただけで。」


「じゃあ、現時点で妥協するようなことは言うな。
かかる費用や生活面は俺に任せておけばいい。
金銭面で君が俺の助けを嫌がってるのはわかるけど、頼ってくれないか?

君の夫になる男は妻に甘えてほしいし、頼ってほしいと思ってる!
申し訳ないと思って、もうどこにも逃げないでほしい。
それと、言いたいことがあるなら正直に言ってくれないか。」


「正直に言っていいの?」


「うん。」


「享祐さんは私のどこがそんなに気に入ってるの?」


「はぁ?」


「私はちょっとさえない感じの美術教師で風紀担当の先生だから好きになったの。
画家で実業家もこなしてお金に困らない人のバックアップなんていらない。
私は自分でいろいろやってみたい。

だけど、そんなの私のワガママにしかとられないよね。」


「かまわないよ。
敦美のワガママくらい何でも叶えてあげたいと思ってる。
ただし、敦美にかかわる男は俺だけだ。

どこが気に入ったかだって?
さえない先生に目が離せないという特殊な女の子がかわいくて俺の方が目が釘づけになってた。
年甲斐もなく・・・君のことが知りたくて。」


「う・・・」
(どうして享祐さんはそういうことをさらっと言っちゃうのかしら。
私だけがだだっこみたいじゃない。何だか悔しい・・・。)


「言いたいこと言っていいんだよね。
私、卒業するまで、享祐さんに会いません!
みんなと同じように高校生活をしっかり楽しんで先に進むことにしたの。
っていうことで。
きっとママたちだってわかってくれると思う。」


「そっか。敦美がそこまで考えたのなら・・・俺は待つことにする。」



2人は敦美の母である万須美と義父の隆造に会い、敦美が高校はきちんと卒業したい気持ちを尊重するとわかってくれたのだった。


「じゃ、享祐さん・・・当分会えないけど・・・。」


「夜には電話するから。それくらいはいいだろう?」


「もう、盗聴器とかカメラとか仕掛けないでよ!」


「わかったわかった・・・。もう半年もないんだから待てるさ。
体に気を付けてがんばれよ。」


「うん。」