敦美の春休み・・・それはみんなが旅立ちの時でもあった。

家族みんなで過ごした家は、他人の家になった。


直弥がアメリカに行ってしまったのはさびしいけれど、運命の赤い糸が直弥と敦美をつないでいたとしたら、どんな状況になってもきっと変わらない・・・。そう信じて毎日を過ごすしかないんだ。


そう、敦美は自分に言い聞かせ、寮へと入った。


「うわぁ、新品のパソコンまで用意してある!
この学校ってこんな贅沢な装備があったのね。

そういえば、お風呂やトイレもきれいでかわいい感じだったわ。」



「あなたが同室の子ね!私、佐上みづほ。
今年3年なの。
ここの女子寮はね、先輩と後輩がペアで1室使うのが伝統なのよ。」


「そ、そうなんですか。高瀬敦美です。
よろしくお願いします。」



「よろしくね。早速だけど、これが寮の決まりと予定表よ。
どこの地域でもゴミ当番とかあるでしょう?

ここも似たようなルールがあるの。
それに従って行動してもらうわ。

そうそう、最近ね、この寮を管理してた女性教師が売春斡旋するようなサイトを立ち上げていたのが発覚して、今この寮の管理者は男子寮の管理をしている七橋先生緒が兼任してるの。

近々新しい担当の先生も決まると思うけど、しばらくは手続きや寮費なんかの質問などは七橋先生にしてちょうだいね。」


「わかりました。あの・・・七橋先生ってちょっと髪の毛がうっとおしい感じの美術の先生ですよね。」


「そうよ。まぁここにしょっちゅう来るわけじゃないから、気にしないでいいわ。
寮では定期集合の日とか寮の活動日に集会室や事務室にいるくらいだから。」


「わかりました。」



引っ越しの荷物を整理して、興味のあった部屋のパソコンのスイッチを入れてみた。

「わぁ!きれい。
画面もそこそこ大き目だし、すごく見やすいわ。

なんて私はラッキーなの。
あれ・・・?
これって前の人のお気に入りかしら。
このパソコンは新品ではなかったのね。

とりあえず、えぃっと。」


出てきたのは出会い系サイトを思わせるページだった。
しかし、ピンクの色使いで上品な雰囲気で、チャットスペースとメールフレンド募集はよくあるコミュニティサイトのようだった。



「ここ前は誰が利用してたんだろう?
ちょっと声をかけてみようかしら・・・。

えっと、誰かぁ!いませんか?
私・・・た、じゃなくって、ハンドルネームどうしよう・・・あっそうだ。
私はジョディって言います。
どなたか使っておられないんですか?」


しばらく待って様子をみていると、チャットの返事がきた。


「おまたせしました!僕は、ラッキーです。
僕と出会えた人はラッキー!君にも幸せがきますように。
だから、ラッキーにしたんだよ。」


「(なんだか軽い?)でもチャットだし。
これからときどきおじゃましますんで、よろしくお願いしますね。」


「こちらこそよろしく。ジョディ。あのさ、ちなみに君はいくつなの?」


「私はもうすぐ17才なの。
ラッキーは若いの?」


「僕は残念ながらあんまり若くないかも。ちょっと君からしたらオジサンの域かもしれないね。
でもネット上のことだし、楽しくやろうよ。」


「そうね、ときどき話し相手になってね。
じゃ、私、しばらく今週は忙しくって・・・またね。」


「うん、またね。」