享祐はメガネと髪をあげた状態だったのと、最近後ろの髪を短く切っていたので、他の生徒たちは振り替えて見てはいたが、誰かは気づかないようだった。


そして正門を出ると、合田が手を振って待っていた。


「やあ、さぁ行こうか・・・え?
あんた・・・まさか・・・なっ!」


「いやぁ、久しぶりだね。花屋の弟。
今日は俺の婚約者を店と畑にご招待してくれたそうで。
君のところに行くのも久しぶりだったんで、俺もおじゃますることにしたよ。
よろしく頼む。」


「こ、婚約者だとぉ!
七橋享祐、おまえ・・・自分の年、わかってて言ってるのかぁ?」


「もちろんだ。彼女はこのとおり、美人で優しいからな。
商売柄、美女を蟻地獄に落とすようなヤツらに引っかかっては困る。」


「誰が蟻地獄だとぉ!
おまえには言われたくないぞ。
金にものを言わせて、蟻地獄を作ってる。
年を考えろ!エロじじぃ。」


「年齢は2つしか違わんだろうが!
とにかく、敦美は俺の嫁さんになるんだからな。
そのつもりでの扱いでよろしくな。」


「くっ・・・。(信じられない。あの七橋享祐が特定の・・・こんな若い娘を。
なにかわけがあるんじゃないのか?そうだ、そうに決まっている!
よし、それが何か調べてやる。)
じゃ、2人ともうちの店の車に乗って。」



合田夏輝は花屋の店を表から案内し、花畑に移動した。


「うわぁ!ステキ。
いつもここでお仕事をされているんですか?
いいなぁ。」


「そうかな。花の美しさのためにやらなければいけないことが多くて、かなり重労働をしなきゃいけないところなんですよ。」


「そうですね。めんどくさい作業をめんどくさいって思ったらできないところですもんね。
あれ?先生・・・どこにいっちゃったんだろう?」


「ねぇ、七橋享祐を先生って呼んだ?
君はもしかして、彼の教え子なのかい?」


「ええ、2年のときは担任でした。」


「どうして、君が。
彼の財産目当てってわけじゃないよな。
俺の勘だけど・・・君はお金がほしくてしょうがないって感じではないし。」


「はい。私も最近、彼のお父様が亡くなって、いろいろあって、たくさん稼いでいる人なんだってわかったくらいで。」


「そうか。やっぱりな。
じつは、俺も、君はお金に引きつけられない娘だと思って声をかけたのさ。
これでもいちおう会社役員だからね。」


「ふだんはお金に興味のある人しか、寄ってこないっていうんじゃ?」


「七橋享祐もそう言ってたのか?」


「いえ、先生はそういうのが嫌だから、さえない高校の美術教師になったって言ってました。」


「なるほどね。いい隠れ蓑だな。
俺もそう。花屋の店先で冷たい水を扱いながらの作業をしていれば、いいと思っていたけど、俺の名札を見たやつはみんな態度が変わる。」


「そ、そうだったんですか・・・。」