翌日からまた敦美は女子寮から高校に通う日々が始まった。

結局、いつもと変わりない日にもどっただけ。

敦美にはそう思えた。


「何がそんなにうれしかったんだろう。
先生ったら、もう先生じゃないからアトリエや作業所で仕事しちゃって、ずっと会えないじゃない、
担任だったときより、ずっとさみしいかも・・・」


夜に享祐から電話はかかってくるが、1日何をしていたか尋ねるくらいで、いつもと変わりない生活を送っている敦美は不満が募っていた。



夏休み前でもあって、敦美は夏野菜の収穫をしていた。

「大きくなりすぎても、おいしくなくなっちゃうもんねぇ。」


「こいつだめだな・・・病気で完全にやられてる・・・。」


「えっ?」


敦美がその声に振り返ってみると、土がついたエプロン姿の男性がプチトマトを育てていたプランタの前に座っていた。


「あの・・・どなたですか?」


「君は、園芸部の学生?
1年じゃないよね。どうして、こんなになったトマトを放置してるんだ。
どんどん感染が広がったらどうする気だった?」


「す、すみません。
確かに私は3年だけど、入部したのが2年だったから気づくのが遅くて。
なんか元気がないなぁって思ったけれど、どうしていいのかわからないし。」


「俺んとこの連絡先もきいてないの?」


「はい。お花屋さんの人ですよね。
苗を買ってるお店があるのは知ってたけれど、対処法とかきいてなくて。
すみません。」


「はぁ・・・引継ぎぜんぜんできないのかよ。
他の3年生は?」


「あの・・・もともと3年は3人しかいなかったし、そのうち2人は理数系狙いだったんで、部活をもうやめてしまったんです。」


「あちゃぁーーー!なんだそれ。
ヘタすりゃ、廃部だな。
まぁ、廃部になればうちが苗木をまわしてやることもなくなるけどな。」


「それは大丈夫です。後輩ならたくさんいますから。
私、必死で新部員は増やしたんですよ。」


「あ、そ・・・。それより、温度とか気をつけないと病気になったりする野菜はけっこうあるんだ。
まぁ、それは高校生には対処は難しすぎるし、部活内だけだと世話ができない現状があるだろ。
だから、これからはおかしいなと思ったらすぐにここに電話してきなさい。」


「合田花壇 合田夏輝って・・・社長さんなんですか?」


「バカ言え。社長は兄貴で俺は弟で社員だ。主に営業してまわってるけどな。
ここもその1つだ。
ここにきたのは半年ぶり、いや、それより前くらいかなぁ。

前は君には会ってなかったなぁ。」


「はい、私は1年のときは部活してなくて、2年で美術部のマネージャーをやってほしいって頼まれて、でも続かなくて、自分でやりたいのは園芸部だって気がついたのが2年の半ばくらいで。」


「なるほどね。じゃ、やっと会えたわけだ。
俺の運命のシンデレラにな。ところで、君、名前は?」


「高瀬敦美ですけど・・・。」


「高瀬敦美ね。よし、覚えた。
じゃ、早速だけど、学校終わったら正門まで迎えにくるから、付き合ってくれ。」


「すみませんが・・・お断りします。
私、そういうのはちょっと。」


「男と付き合いたくないっていう人?
それはいけないなぁ。まだ高校生なんだ、可能性はいっぱいある。
たくさんの人と付き合ってみなきゃいけないよ。
いきなり取って食おうなんて思ってないからさ。」