敦美は事情はわかったものの、今、自分の薬指にはまった青い石の指輪の意味が理解できていなかった。


「この指輪なんだけど、これはどういう?」


「愁さんがね、今日、前にすすむために陽向さんが敦美にプロポーズして指輪を渡すと教えてくれた。
それをきいた俺は、びっくりしたさ。

そりゃ、敦美が幸せになってくれるなら・・・って思ったけれど、それなら、今日じゃなくてもよかったはず。
前に進む日はもっと後でも、いいだろう?
君は若いんだからね。

押し切られるのがわかってるなら、俺が直接、指輪を渡して告白してもいいはずだ。
そう思ったんだ。
それとも、もう俺は嫌われてしまったかな。」


「ううん。先生・・・おかえりなさい。
でも先生からはまだ、何もきいていません。
指輪をいただいただけですよ。」


「はっ、そうだったね。高瀬敦美さん・・・俺、七橋享祐と結婚してくれますか?
ただし、高校卒業後ですが。」


「はいっ。」


「あ、あのさ・・・後ででいいから、その指輪を君の好きな宝石に変更していいかな。
それ、かなり安いやつでさ。
あまりに急いだから、かけだしのモデルさんがはめたのをもらってきてしまったんだ。
エメラルドっぽいサファイヤっぽい感じがするけど、それ人工ダイヤだから。」


「ぷっ!!さすが、七橋先生だわ。
絵柄がよかったから・・・って理由だったんでしょ。
私は何だっていいのに。」


「だめだ!いい加減なのを婚約指輪に送ったなんて叔母さんに知れたら・・・殺されるかもしれない。」


「あら?陽向さんは・・・?いつの間にかいないわ。」


「あいつなら、兄貴の結婚式だよ。
衣装替えして突撃するつもりだろ。」


「あ、私・・・悪いことしちゃったなぁ。
ごめんなさいも言ってない。
あとでお手紙でお詫びしておかなきゃ。」


「大丈夫だって。
でも、間に合ってよかった。」


「あ、そうそう、先生昨日はどこに泊まったんですか?
駅前で見たって佐上先輩から電話があって、私捜してたんですよ。」


「ん?家だけど。」


「だって・・・家にはもう別の人が住んでいたし。」


「あぁ、部下の家になってるけど、もどってきたから寝させてもらった。
それに、いい物件を見つけてね。
よかったら・・・そこでいっしょに住まないか?」


「近くなんですか?」


「いや・・・北海道にあるんだけど。」


「はぁ?だって私まだ高校に・・・。」


「すぐ卒業しちゃうだろ。
そしたら、2年北海道行って勉強だの修業だのやるだろ?
だったら、俺も北海道で絵を描く。
きっと自然がいっぱいでいい絵が描けそうだ!」


「じゃ、私が高校卒業するまで・・・あと半年以上ありますけど、どこに住むんですか?」


「アトリエだの画材屋だの、田神の工場跡地でもいけるさ。」


「お金持ちなのに、また相続されたんですか?」


「いちおうね。ただ・・・陶磁器の業界のことは愁さんの方が秀でているから、全部渡してきた。
安値で買ってもらったというかね。
それで得た収入で北海道のね・・・。」


「まぁ!先生はホントのところ、何をやっている人なんですか?
あ、私は先生の財産とか興味ないですけど・・・。」


「ぷっ!わかってるよ。だからプロポーズしたんじゃないか。
敦美も自分を基本として最低な必要分しか興味ないんだもんなぁ。
俺としては、卒業したらもうちょっと女性としての気配りにお金をかけてほしいんだけどね。
いちおう、俺は画家だったり、デザイナーだったり、財布とかベルトとかの小物や食器やカーテンなんかの絵柄もやってたり・・・その手の店の経営をちょっとやってたりだけど。
まぁ、気にするな!」