抱えきれないほどの花束をあげよう!

2人でおしゃべりするだけでも、享祐のとった行動は1つ1つの心遣いが感じられた。

敦美は知らないうちに涙が自然に流れていっていることに気付かなかった。


「敦美やっぱり・・・あなた、ううん何でもない。
嫌なことは忘れて、これからは就職や進学のことを考えなきゃね。」


「うん、そうそう。前に進まないと。」


「私たち若いんだから、あわてて前に進もうとしなくてもいいんじゃない?」


「そうだけど、忘れて前にすすまなきゃ、狂いそうになるの。
声がきこえて、思い出が見えてきて・・・そんなのたえられない!」


「敦美・・・かわいそう・・・。
(何かできないかしら。)」





そして、時はあっという間に過ぎて、明日が田神の関係者が集まっての結婚式の日。


去年敦美と同室だった1年先輩の佐上みづほは大学生になって駅前のパン屋さんでアルバイトをしていた。


「あら?あれって・・・もしかして。」


夕方5時過ぎになり、敦美の携帯電話が鳴った。


「もしもし・・・あっ、やっぱりみづほ先輩!!お久しぶりです。
お元気ですか?」


「うん、私はマイペースな大学生やってるわよ。
それで、最近は駅前のパン屋さんでバイトしてるんだけど・・・。」


「そうなんですか、で、バイトで何かあったんですか?」


「そ、そうなのよ!バイトして店の宣伝用の看板あげてたら、通ったのよ!」


「何が通ったんですか?」


「だから、先生よ。七橋享祐!!」


「そんなぁ。きっと見間違いです。
だって、先生は・・・明日、結婚式なんですよ。」


「だけど、間違いないと思うわ。
あの独特の雰囲気っていうか、背の高さといい、あんたに見せてもらった写真の目がキリリときつくて光ってて近づきにくい感じのあの雰囲気は絶対、七橋享祐だって。
それで、私、あなたに電話してるんだから!」


「そ、そんな。あっ、先輩ありがとうございます。
ちょっと気になるところに問い合わせてきいてみますね。」


「ええ、会えるといいわね。いい返事を待ってるわ。」


「はい。」



敦美はあわてて、享祐のもとの家に電話をしてみた。


「はい、夏木です。もしもし、もしもしどなたですか?」


「すみません、間違えました。(違う人だわ。やっぱり先輩の見間違いだよ。)」


敦美はみづほからの電話でつかの間の喜びに、笑いがこみあげてきた。


「クッ、もう、私ったら・・・あははははは。
そんなに先生のこと思ってたのかしら?
きっと、お祝いのおすそ分けだったのね。
これで・・・前に進めるわ。きっと。」