体験学習で北海道に敦美は向かっていた。

ここでうまくやっていければ、高校を卒業したら、自分はここで2年がんばって、それから学校の紹介で農家で働ける。
そして、慣れてやっていければ、お花屋さんになる夢もかなう。


「この道も先生が開いてくれた道。
私、がんばりますね。
自分で幸せになる道へ突き進んでいきます。」



それから、敦美は現地に到着して、翌日からハードなスケジュールと慣れない仕事体験で余計なことは考える暇さえなくなった。

その方が敦美にとっては、どんどん自分の技術向上に役に立つと思っていた。

広い大地に大量の花。

寺や神社にホテルにパーティーにと配達するだけでも半端ない数だった。




そして、雅光高校にもどってきたときには、すっかり日焼けしてたくましくなっていた。

同じ部屋の松田洋子は3年になってからのルームメイトだが、敦美の顔を見て叫び声をあげた。


「あらぁ!!健康的っていうより、男前ねぇ。
いったい何を体験してたの?」


「花の他に大根とかじゃがいもの収穫も手伝ってたから、顔は日焼けして、腕は筋肉質よ。」


「あちゃぁ・・・私はそこまでしたくないっていうか、そこまで土いじりはしたくないわ。」


「あははは言うと思った。
洋子は純文学一筋だもんねぇ。
でも、ロマンチストの女性は尊敬しちゃう。
もし、賞をとったら、私がバラの花束を贈るからね。」


「わぁ、まだやってもみないことなのに、すごい約束ね。
楽しみにしておくわ。
ところで・・・昨日も来てたわよ。
かっこいい人。あの人は彼氏じゃないって言ってたわよね。
そのわりによく来るのには、何かわけがあるの?」


「うん、私が知りたい情報を持ってきてくださるだけ。
だけど・・・もしかしたら彼氏になるかもしれないわ。」


「へぇ、そのわりにはうれしくないみたい。」


「そ、そんなことないわ。
真面目な人なのはわかるもの。」


「私ね、前に敦美と同じクラスだった娘にきいたことあるんだ。
敦美は担任の七橋先生が好きだったって。

七橋先生がいなくなってずっと目が赤かったって。
ほんとは付き合っていたんじゃないの?」


「えっ?そんなこと・・・。」
アルバイトを世話してもらったり、園芸について学ぶきっかけをくれたり、体験できる学校を用意しておいてくれたり・・・とにかくお世話になりっぱなしで。」


「ふうん・・・憧れだったのね。」


「そうみたい。ほんとはすごくかっこいい先生だったの。
学校では、ぼさぼさ頭にさえないメガネをかけていたけれど、絵を描いているときはするどい目に黒と藍色の瞳が光ってとてもきれいなの。

それでいて、近所の子どもに大人げない勝負をかけたりして・・・。
面白い先生だったわ。」


「そう、私は直接話したことはほとんどなかったけど、不可抗力で服がほころんでいたときに、きっと風紀検査でしょっぴかれると思ったけど、保健室に行かされて、いってみたら、裁縫セットが置いてあった。
そんな心遣いができる先生だったなぁって感心したよ。」