陽向は神妙な顔をして話を続けた。


「そう、高瀬冬弥はとくに若者に支持されているイラストレーターだ。
その妹っていうだけでも、君は普通の女子高生とはいえない存在なんだよ。」


「でも、私は何もしていません。
べつに学校でミスコンとかに選ばれるとか、美女として取材されたり、スカウトされることもありませんでした。
だから、都築さんの心配なことなんてぜんぜんないと思うんですけど。」


「いや、それはまわりが君を知らないだけで、僕は君と話しただけでもう興味がわいてしまって。
あとはどうやって自分の気持ちをおさえたらいいか悩みました。」


「はぁ・・・そういっていただくと、私がすごくお姫様みたいに思えてきます。
ありがとうございますって言わないといけませんね。あははは。」


「とにかく、他の男に君を接触させるなんて、僕は嫌ですから。
君が前に足を踏み出すときは、その一歩目は僕の前にしてほしいんです。
だめですか?」


「私みたいな娘でいいんですか?」


「高瀬敦美さんでなければ、僕が前に踏み出せません!」


あまりに真面目な顔をしてストレートに申し出てくる態度に、敦美はありがたささえ感じてしまったほどだった。


「わかりました。都築さんのおっしゃった先生の結婚式の日に私・・・前へ進みます。」


「敦美さん・・・。ありがとう。
僕、うれしいです。楽しみにしていますね。」


「はい。」



それから、春休みが終わり、敦美は3年生になり、体験学習に出かけることになった。


「今度のクラスは4組・・・。このクラスで卒業するんだわ。」


「高瀬さん、私は前は3組の結城佳奈子。
仲良くしてください。」


「私こそ、仲良くお願いします。
あ、でも私が高瀬だってよくわかったね。」


「だってあの高瀬冬弥の妹でしょう。
冬弥様ってイラストレーターとしても有名だけど、ご自身だってカッコよくて写真集まで出てるんだもの。

その妹さんっていうなら仲良しにならないとね。」


「そういうこと・・・あはは。(これは血がつながらないなんて言っちゃダメだよね。)」


陽向に言われた、冬弥の名前からの知り合いはきっとすごく増えるだろうとこのとき実感した。