冬弥に寮の入り口まで送ってもらうと、入り口に都築陽向が立っていた。


「都築さん?」


「こんにちは。君が帰ってくるのを待ってた。
いいかな・・・これから。」


敦美は冬弥に心配はいらないと説明して、冬弥に帰ってもらった。


そして、寮ですぐに私服に着替えてから、陽向の車に乗っていた。



「お兄さん、僕の存在を知ってしまったかな。」


「ええ、話はしたことがありますよ。
都築さんは田神さんのライバル会社の偉い人って。」


「僕はべつに偉くはないんだけどね。
あのさ、情報を1つ・・・。」


「なあに?」


「七橋享祐と田神梨香、いや、松井梨香の結婚式の日取りが決まったみたいだ。

5月10日らしい。

場所は田神の邸近くのシティホテルの大広間だそうだ。」


「そう。決まったの。」


「悲しいかな?」


「わからないわ。
どうしたらいいのかも・・・だんだんわからなくなってきたの。
私に残されたのは、新しい道だけだから。

七橋先生が当たってくれてた学校で体験して、そのとおりに進学しようと思ってるの。」



「あのさ・・・そろそろ言ってもいいかなって思ったんだけど、
僕と正式に婚約してくれないかな。

陶磁器屋の重役っていうだけじゃ、興味ないかな。」


「それは・・・私、お花の勉強したいし。」


「いっこうにかまわない。
すぐにうちの会社のことを勉強してくれなんて言わないよ。

学生のうちはしっかりやりたいことを学んでいい。
むしろ、学ぶべきだ。

それに僕は君を僕の都合で縛り付けるような生活をさせないようにしたい。

これまで情報を伝えるために君に会いにきてたけど、だんだん君に会うのが楽しくなってきたんだ。
いや、あの泣いてる君にハンカチをわたしたときから、一目ぼれしてしまってた。

嫌じゃなかったら、そろそろ前に進みだしてくれないかな。
それとも、僕は嫌われてるのだろうか?
少なくとも、嫌われてはいないと僕は思っているのだけれど・・・友人くらいにはなれたかな?」


「ええ、都築さんはいつも優しく接してくれる友達だと思ってます。
私は田神という家も、陶芸もぜんぜんわかりませんが、都築さんが説明してくださって、きれいだなって思う器とか知ることができました。

そうですね・・・先生の式が決まったのなら、私も前に進まなきゃいけないですね。」


「じゃ、結婚を前提として付き合ってください!」


「えっ?」


「できれば彼の結婚する日に婚約してほしい。」


「あ、それは・・・。」


「吹っ切れませんか?前にまだ進めませんか?
僕は待つと言いました。しかし・・・君が前に進む方向で考えているのをきいたら、もういてもたってもいられないのです。

君は実業家の家の娘だそうですね。
それなら、いろんな男が君を狙っていてもおかしくないでしょう。

ある意味、七橋享祐がいたときは守られていたともいえる。
けど、もう彼は・・・君とは関係ないとなったら・・・。」


「そんな・・・うちは実業家といってもさほど大きな会社ではありません。
冬弥兄様が名前ではいちばんメジャーですけど。」