そして、その日を最後にチャットにラッキーとジョディは姿を見せなくなった。


享祐と敦美の仲はあいかわらず、学校では先生と生徒で、放課後や休日は2人で享祐の家やアトリエで過ごすことが増えた。


とくに目立って付き合いに進展があったわけではない。

とにかく、敦美の高校生活を優先することが第一だったからだ。


それからクリスマスイブの前日の夕方のこと・・・

享祐に緊急の電話が入った。


「もしもし、はい、享祐は私ですが・・・えっ、それは大変なことになってしまったんですね。
わかりました。そちらへうががっていいと許可が出たのですから、行かせていただきます。

あ、私個人のかかる費用については気になさらないでください。
事業も地味ですが、黒字ですので、私でできることでしたら、協力させていただこうと思っています。
では。」


(ふぅ・・・困ったなこりゃ。
俺が突然、学校から消えたらどうなってしまうんだろうなぁ。

敦美はさびしいと泣いてくれるかな。

もしかしたら、2度と会えなくなるかもしれないな。

くそっ!敦美は俺が初めてすべてをかけても守りたいと思った、かわいい恋人なのに。
嫌だ。もう過去の怪物に弄ばれるのはたくさんだ。

しかし、俺の血を分けた兄弟が分かれて施設に預けられるなんてだめだ。
クソオヤジがどうであろうと、兄として手を貸さなければ後悔する。


敦美・・・いつになったら会えるのかわからないけど、お別れだ。ごめん。)



そして、クリスマスイブにいつものように登校した敦美は衝撃の事実を知ることになった。



「七橋先生はご家庭の事情で、この学校を退職されました。
3学期に君たちと会えなくて申し訳ないと何度も謝っておられましたが、3学期は臨時の先生が来ます。

2学期終了までは私、中溝が担任代理をさせていただきます。」


「中溝先生!七橋先生はぶっちゃけどういう理由なんだよ。
体の具合でも悪いの?」


「いや、家庭の・・・もうすぐワイドショーあたりで知れることになると思いますが・・・そっちで納得してください。」


敦美はどこか遠くで流れるニュースをきいているかのようだった。


「クリスマスイブは会おうって約束したのに・・・どうして?
メールも電話もないの?どうして?
また私には何もいってもらえないの?」


みんないる教室で、声も出さずに涙だけがひたすら流れ出るのを感じた。


昼休み・・・中溝に呼び出されて中庭へ行くと、中溝は敦美に享祐からの手紙を渡してこう言った。


「伝言だ・・・『俺より素敵だと思える人と出会ったら、その人と幸せになってほしい』だそうだ。
あいつの実の父親が死んでな、あいつの唯一の異母兄弟たちを守らなければならなくなったんだそうだ。

もしかしたら、親父さんの若い嫁さんと結婚することになるかもしれないんだって。」


「えっ!・・・。」


「君はまだ高校生で若い。やりたいこと、思うことをしなさいって言ってた。
つらいだろうが、あいつもすごくつらいと思うんだ。
ごめんな、こんなことしか言えないんだが・・・複雑なやつだからな。

国まで捨てて日本に来たのにな・・・なんてついてないヤツなんだ。」


「国までって?」


「あいつの母親の国だよ。なんていったかなぁ。
あいつの母は第2王位継承権だった。国は滅んだわけじゃなかったんだ。
あいつは王になれる資格を持っていた。

しかし、隣の国と併合させてしまって自分は王ではなくなった。
それで・・・ここへきて、俺に先生をやらせてくれってな。

あいつにとって過去はどこまでも、痛い存在なんだろうな。

わかってやってくれないか。
せめて、君だけでも・・・これから七橋はいろいろとたたかれるだろう。

わかってやってほしい。そして、1日も早く・・・君の記憶からも消してやってほしい。頼む。」



「そんなこと、急に言われても、私何もわかりません。
クリスマスイブの約束まで破られて・・・私どうしていいのか・・・何をどう理解したらいいのか。
ただ、悲しいとしか・・・悲しいです。」