敦美は享祐の嘘を理解したわけではない。
ただ、自分が高校生だとばかり主張してばかりなのは子ども過ぎるんじゃないか。

享祐だって高校生の頃があって、家庭が複雑だったから苦労がいっぱいあったのだろう。
なのにどうして、自分みたいな教え子に言われっぱなしになって、謝ってるのだろう・・・無視しちゃえばいいのにと考えてみたのだった。


「ん?どうした・・・?」


「べつに。享祐は高校生のときは飛び級だったからどんな高校生活を送ったんだろうって思っただけ。」


「生きていくのと絵を描きたいことだけでいっぱいいっぱいだったから、どこをどう飛んだのかも忘れちゃったな。
敦美みたいな同級生か、後輩がいたら飛び級なんてしなかったな。
今が俺の高校生活。
彼女はとってもかわいい。怒っても笑っても、赤くなってうつむいたときなんか、抱きしめたくなるのをこらえるのに困るから、表情に出てしまわないかとあせってしまう。」


「朝の会のとき?」


「そうだ。キスした翌朝に真っ赤になってうつむくのはやめてくれ。
胃が痛くて死にそうになる。」


「ごめんなさい。」


「ぷっ!もっと早く冬弥に相談すればよかったな。
早く姫に許しを請うべきだった。」


「許しだなんて!私は、嘘をついてほしくなかっただけ。
じゃないと、私は子どもだから何も言ってもらえないんだって落ち込んでしまうんだもん。
いつも、頼ってはもらえない。
わかってるのよ、私にいらぬ心配かけたくないとか思うんでしょう?
でも頼ってもらえないんだって、ずっと気持ちのどこかに残っていくの。
仕方がないんだろうけど・・・。」



「頼ってるさ。俺の今のエネルギー源って何だと思う?
朝、クラスの生徒みんなの顔を順番に見て、そして敦美の顔を見て、赤くなったり、ニコニコ笑っていたりしてるのを確認すると、今日もがんばるゾ!って思えるんだ。

つらそうな顔を見ると、胸が痛くなってどうしたんだろう?何かあったのかなって考えずにはいられない。
中溝先生に言わせると、そういう日常が普通なんだって言われたんだ。

以前の俺は目の前のもの1つ1つなど、どうでもよかったからね。
景色全体が色がついてる物体にしか見えなかったんだ。
だから絵を何枚も描いた。」


享祐は少しずつだけれど、つらかった過去に話をぽつりと話してくれるようだった。

敦美は思い切って自分がからクリスマスイブの夜に会ってもらえないかと享祐に聞いた。

享祐は満面の笑みを浮かべて会う約束をした。


その日は冬弥が取ったチケットと予約コースを2人で楽しんで寮へと帰っていった。


「あの・・・ラッキーさんはどうしてラッキーさんなの?」


「だから・・・その・・・ラッキーセブンってことで。ね。」


「はっ!七橋・・・そこだったんだ。
正体がわかっちゃうともうチャットできないね。
はずかしいなぁ。
すべて情報源は私自身だったんだと思ったら・・・もうやだ・・・。」


「俺は敦美もジョディもどっちも好きだよ。
敦美が何か言いにくそうだなぁっていうときに、ジョディから事情をきくと、いつもなるほど・・・って思うことばかりだった。
そうでもしてきかないと、俺に気を遣うんだから。」


「仕方ないじゃない。私は先生よりずっと年下なんだし・・・いつもごめんなさいしか言えないし。」


「敦美・・・そんなこと考えなくていいのに。」