翌日の夕方、敦美は10分前には駅前にやってきた。


「えっと・・・冬弥兄様は。えっ!?」


「やぁ、冬弥が仕事の都合で来られないから、俺が今日のエスコート役を仰せつかった。
七橋享祐です。よろしく~!」


「あ・・・兄様わざと・・・2人で図ったわね。
私は冬弥兄様が都合が悪いなら帰ります。じゃ。」



「待てよ、待てったら・・・行くなジョディ!」


「えっ・・・!どうして、先生が・・・まさか、まさか・・・」


「ごめん、嘘は嫌いなんだろう。
俺がラッキーだ。
悪気はなかった。風紀担当で昨年度に起こった、乱れた女性職員の罪の後始末でサイトの点検をしていたときに、君にネット上で会って、これは生徒だろうから保護しようと思ったことがきっかけだったんだ。

でも、あまりにいい娘だったからずっと言い出せなくて・・・本当にごめん。

家のことも仕事のことも、悪気はなかった。
俺は財産目当てで近づいてくる女性に困ってたことがあった。
だから素性を隠すために、雅光高校の先生になった。

幸い、俺に協力してくれる先生も冬弥たち絵の仲間たちもいて、助かっていた。
けど・・・女性だけは信じられなかったんだ。」


「だから、大人の女性じゃなくて、生徒ならネンネだからだましやすくていいと思ったの?」


「違う!敦美を騙そうなんて考えてなかった。
敦美には、知られたくなかったんだ!

さえない美術の先生のままで、楽しかったよ。
ほんとに敦美ひとりなら、養っていきたいって思った。
教師の給料だけで、いけると真剣に思ってた。

けど・・・いつのまにか知られてしまった。
知られたら嫌われた。」


「だって・・・あまりに生きる世界が違うと思ったんだもん。
私には先生の以外のお仕事のことも、どういう生活してるんだかも想像つかないとこに先生は行くんだもん。
私はどうしたらいいかわかんない。

いつも、大人のかっこいい女性がどこからかやってきて、私はひとりでおいていかれちゃうんじゃないかって、そんな恐怖がいっぱい。
高校生は高校生らしい相手と遊びに行くのが、楽なんじゃないかって。」


「俺だって君が美術部の沢井や園芸部の相田と楽しそうにしてるのを見てるのは、嫌だった。
そのうえ、高瀬直弥の愛人なんて・・・冗談じゃない。

すぐにあいつの顔ぶん殴って、敦美と海外の別荘に住んでやろうかと思ったくらいだった。
結局、調べることくらいしかできなかったんだけどな。」


「でも調べてくれてたから、私は直弥兄様と不倫してる女にならなくて済んだわ。
お世話になったことは、お礼をいいます。
だけど、私は先生のことを受け止められない・・・です。

せいぜい、どこかに遊びに行くことくらいしかできないんだもの。
こんな私じゃ・・・ラッキーさんだったらわかるでしょう?」


「そうだね。君がときどき悩んでいたことも、チャットできいていたんだからわかってたよ。
だけど、言えなかった。
正直に何もかもいうことなんてできなかったんだ。

敦美といっしょにいると楽しくて、かわいくて話していたくて。
それだけじゃ、会ってもくれないのかな?」


「会ってもいいよ。
でもそれしか、今はできないよ。
それでもいいの?」


「いいよ。
それで十分だよ。
電車に乗って、予定通りにライブ行ってみないか。
冬弥にチケット譲ってもらったからさ。」


「えっ・・・。もう、大人って陰で何の取引してるんだか、わからないんだから。」


「ははは。そういうなよ。
これでも、好きな女と会いたいために必死に画策したんだから。」


「私ばっかり騙されるんだわ。」


「そういうなって。もうすぐクリスマスだろ。いいプレゼント用意してるんだから。」