試験が終わって、結果もそれぞれわかってきた。

敦美は不安要素がなくなったおかげなのか、能率のいい勉強ができたからか、いつもどおりトップクラスの成績がとれた。


そんな時、職員室で数学担当の教師である中溝に声をかけられた。


「この時期に数学でいい成績がとれる女子っていうのはめずらしいと思っていたが、なかなかの才女だね。
芸術面よりも、経営や経済あたりを狙っていくのがよさそうだ。」


「あの、何のことでしょうか?」


「君は企業向きだって思ったんだ。
君は研究とかは興味がないってきいたので、企業戦士の方が目指しがいがあるんじゃないかとね。」


「あ、これからの進路のことですか・・・。」


「そう。あとそうだね・・・芸術一筋の夫のマネージメントを取り仕切ってやるという仕事もいいかもしれない。」


「えっ!?」


「失敬。俺は実家が画材屋と画廊をやっていてね・・・キョウスケ・ナナハシの絵をとくに扱っている。
この学校を薦めたのも俺だしな。

思うように描けない彼に、絵なんて何もわからないやつに教えてやったらどうかとね。」



「あの、中溝先生、どうしてそんなことを私に・・・言われるんですか?」


「享祐と俺は幼なじみでな・・・俺はお兄ちゃんなわけさ。
弟が気にしている女くらい、わかってないとな。」


「わ、私は何も・・・なんか誤解をされています。」


「まぁいい。今は教師と生徒だから、それでいいと思うが・・・けっこうきついだろ?」


「はぁ?」


「じつはな、俺とうちの嫁さんも学校ではなかったけど、塾の先生と生徒の関係でさ。
もう、当時はかわいくてな。
今は、とても強くなってな、子どもが2人になると無敵モードなんだけどな。がっはははは。」


「そ、そうだったんですか。」


「いちおう、俺も監視役ってことでよろしくな。
当事者にはわからなくても、第三者にはわかるってことが多いものだ。
おまえたちには俺がダメ出しをしてやる。ってことで・・・挨拶しておく。
よろしくな。」


「あの・・・七橋先生は何でも中溝先生に話しちゃうんですか?」


「そうだな。話題にもよるが、おまえとのことはけっこうマメに相談を受けてる。」


「えぇーーー!うそっ。」


「嫌だよなぁ。生徒のおまえにはとても気まずいし、困るよなぁ。
そこがあいつの芸術家である所以っていうのかな。
どっちかっていうと、高瀬は俺の側の人間っていうか・・・人並にまわりとか気にする方だろ。」


コクコク・・・と敦美は自然とうなづいていた。


「だからさぁ、誰かが注意深く監視していなきゃ、ダメなんだ。
そのうち、おまえら、俺に感謝したくなると思うぞ。
お礼だったら、駅前のたいやき5ひきでいいからな。
それより高級なものはいらんからな。」


「先生ったら、難しいことを話すのかと思ったら・・・ふふっ。」


「けっこう話せるヤツだろ?数学に秀でるやつは人間的にはあったかいヤツだったりするんだよ。
ただし、常識の範囲でな。だから、ハメをはずすんじゃねえぞ!
それだけはクギさしとかないとな。」


「はぁい。でもなんか説得力があるというか、言葉に実感こもってますね。」


「そりゃさぁ、うちは失敗もやっちまったからなぁ。がはははは。」


「うそぉ・・・あら。」


「けどな、今はとても幸せなんだぞ。結果オーライだ。
ただ、うちは俺が学校に就職する前だったから、よかったけどな。
おまえらは違う。だから気をつけないとな。」


「はい、そこは気をつけます!」