次の日曜日は部屋で試験勉強をするつもりだったが、享祐の過去が気になって、敦美は急きょ享祐のアトリエに出かけていった。


「どうしたんだい。急に来たいなんて。
中溝先生にきいたら、敦美は数学はかなりできるってきいたよ。」


「そ、それは・・・ちょっと気になったことがあって。
勉強に身が入らなくなっちゃって。」


「俺のこと?」


「うん。」


「それはうれしいね。先生としては、ここは勉強しなさい!っていうところなんだろうけどな。
で、俺の何が気になるんだい?」


「あの、先生はある国の王子様なんだって本当なんですか?」


「えっ?」


「若いときの先生を知ってるって園芸部の相田部長が話してくれたんです。
個展を開いたとき、すごくきれいで女性にモテてじつは王子様らしいって。」


「は、はぁ・・・確かに個展はやったし、パーティーに女性がいっぱいきてて、大変だった時期もあるけど、王子様は言い過ぎだなぁ。
正確にいうと、俺の実の母親が王女だったことがあるってだけで、俺はその息子でその後すぐに母が亡くなって叔母さんの家にもらわれて育ててもらった。

そういうことさ。
じつの父は知ってるだろ。陶芸家の田神享我なんだけどさ、彼は母のことを王女だって知らないまま恋におちたんだ。
そして、俺が母さんのお腹にいるときに母の実家のことを知って逃げ出したのさ。
恐れ多いとか言って・・・本当は自分が面倒だっただけなのに。

母はティランガ王国という小さな国の第2皇女だった。
もう、その国は今はないんだ。
内戦とテロが続いて、母さんが亡くなったあとに国も亡くなった。

だから命からがら俺は、叔母さんのところにね・・・叔母さんは正確にいうと、母さんの腹違いの弟の妻なんだ。
若いときにすでに国から追放されてた身だったんだ。」



「そんな大変なこと、私がこうやってきいちゃっていいんですか?
私も恐れ多くて逃げちゃうかもしれませんよ。」


「あははは、敦美が逃げても俺が追うさ。
どこまででもね。」


「やっぱり、享祐のことまだ私・・・。」


「信用してくれないんだな。ふぅ・・・で、他に聞きたいことは?
君が不安になることは取り除かないと、俺の未来は暗そうだからな。」


「享祐は今まで何人の女性と真剣にお付き合いしたの?」


「ん?正直にいっても気を悪くしないかな?
俺を信じてきいてくれる?」


「はい。知らないよりは何でも知りたいです。」


「俺は19歳のときに夢中になった女性がいた。
フランスのパリで個展をやったときのこと・・・すごく美人で笑顔がチャーミングな女性に好意をもった。
彼女は1つ上の20歳でファッションモデルだった。
人気急上昇まちがいなしっていう人でね、絵のモデルもしてもらった。

デートを重ねて・・・俺としては学校も飛び級で卒業してたし、対等だと思ってたんだ。
だけど、彼女はそうじゃなかったんだ。
彼女はある国の王子からの求婚をあっさり了承して、結婚してしまったんだ。

その国が母の祖国を飲み込んだ国だった・・・。」


「そんな・・・。」


「叔母さんの家にもどった俺は荒れてたよ。
きれいだともてはやされた時期はそこで終わってしまった。

俺は絵でも何でも夢中になると、他が見えなくなる。
だから、女性は彼女しか見えてなかったんだ。
敦美が言ったとおり、そういうとこなんか子どもなのかな。

ときどき、必要に迫られて見た目きれいにしてるときもあったけど、それからの俺は君の知ってる俺がほとんどだ。」