享祐に連れてこられた画材屋は敦美の考えていたような店とは異なっていた。

商品の入った段ボールがいくつもあってまるで倉庫といった感じである。

倉庫の合間にデスクがあって事務所も兼ねているといった感じだった。


(こんなところで、私はいったい何をするんだろう?)


そんな思いでキョロキョロしていると、外にライトバンが止まって30代の男女が事務所に入ってきた。


「輸出する絵の具と色鉛筆が追加注文いただきました!」


「こんな急に予定外の注文が来るとは思わなかったから、工場の生産が追い付かないわ!」


「そうか、では待ってもらうしかないな。」


「ああ、またまだかまだかって文句言われそうですねぇ。」



「あの・・・他のお店をご紹介してあげるわけにはいかないのですか?」


つい、話をきいていた敦美が口をはさんでしまった言葉に、享祐はククッと笑い、ライトバンから降りてきた2人はあっけにとられていた。


「す、すみません。私変なことを言ったんですね。
すみません、ごめんなさい。」


すると女性が自己紹介しながら説明を始めた。


「私たちはこの店の店長と副店長で、夫婦でもあるの。
平田未菜です。こっちはダーリンの祥吾さん。

で、ここは倉庫みたいでしょう?
つまり、輸出や卸しをしているの。小売りもしないことはないけれど、お客様がたくさんやってくることはないの
よ。」


「それにここで売っている絵の具や色鉛筆、他の商品すべてのプロデュースをしているのはキョウスケ・ナナハシなんだ。
指定工場でオリジナル商品ばかりを製造しているんだ。
俺たちは、その発注をしているってわけさ。
簡単にいうと、玄人向けっていうのかな?」


「あの・・・キョウスケ・ナナハシさんって七橋先生のことですよね。
先生ってそんなに偉い人なんですか?」


「ぷっ、あはははははは!!」


享祐が大声で笑いだすと、困ったような表情で平田祥吾は説明し始めた。

「キョウスケ・ナナハシは今や、世界でもトップレベルに入るだけの画家であり、デザイナーであり、名前は知っていても姿、形を知らない人が多いんだよ。」


「そ、そんなすごい方なのですか?
わ、私何も知らなくて・・・私・・・もう帰ります。失礼しました。」


真っ赤な顔をして事務所を出て行こうとする敦美に享祐は声をかけた。

「もうバイトしないのか?」


「すみません、私何も知らなくて。
あまりに場違いなところにきてしまったと思ってます。
それに、私はもともと絵が好きで美術部に入ったわけじゃありませんので、私、美術部をやめます。
きっと入りたい人はいっぱいいると思うし、私なんかがいるよりきっとその方がいいですよ。
さようなら。」


「おい、高瀬!」