とりあえず、心配ではあったが享祐は学校へ出かけていった。

しかし、仕事中も享祐は敦美のことが気になって、あまり能率は上がらなかった。


そして、予感は的中してしまった。
ちょうど、享祐が甘味処七橋の店内を見ると、何やら敦美が必死に頭を下げていた。


すると敦美の向かいにいた男性客が敦美の腕を引っ張って店の外に出て行こうとして、敦美はついに助けを求めて声をあげていた。


「お客様、お菓子の粉がかかってしまったことはおわびいたします。
けれど、それで私をご自宅に引っ張っていかれるのは困ります。
私は他のお客様にもお菓子をお持ちしないといけないので・・・きゃあ!!」


「いいから、おわびはうちにきてからしてもらうから、とにかく僕のいうことをききなさい。
僕はお金もちだし、悪いようにはしないよ。
他のお客さんに迷惑がかからないように、早く行こうじゃないか。」


「そ、そんなぁ!困ります。
痛い!や、やめてください。」


敦美の両肩を男がつかんだとき、享祐は慌てて男の腕をパン!と払い除け、すまし顔で言った。


「お客様、私はこの店の主人です。
うちの店員にどんな失敗があったかどうかは、警察にいってお話いただいた方が間違いないと思います。
それに彼女は、まだ高校生のアルバイトですので、あまり体を触られますと、お客様が罪に問われることになるかと思いますが・・・。」


「ちっ、今日のところは仕方ないな・・・出直してくるよ。」


男はそういって店を後にした。


「先生・・・どうして、ここに?」


「どうしてもこうしてもないだろ!
何だ、あれは・・・それにまた来るつもりだろ。
ダメだ。ダメだ。
ここでのバイトは許可できない。
店の客層を変えてしまうほどの、働きはしてもらっては困る。」


「でも、お金を稼がないと・・・私・・・。」


「別の店に連れていく。それならいいだろう?」


「でも、せっかくここの皆さんがご親切に教えてくださったのに。」


「また、バイト以外でここに来ればいい。
叔母さんも喜ぶからな。

とにかく、これから店に行くから来なさい!」


「あの、せ、先生?待ってください・・・。着替えてきますから。」


享祐は七橋の店の車に敦美を乗せると、15分ほどで小さな画材屋にたどりついた。


「ここで明日から働いてもらう。
ここだったら、たくさんの人と出会わなくてすむし、変な客につかまらない。」


「あのここのご主人はどこですか?
ご挨拶をしないと・・・。」


「ここは、俺の店だ。俺がオーナーだから心配はいらない。」


「あの、どうして、最初からここに連れてきてくれなかったんですか?」


「高瀬が水商売希望だったからだ。
時給がいい方がよかったんだろう?

それに、ここの仕事はたぶん、退屈だと思うしな。」


「どういうお仕事なんですか?」


「画材を売る仕事や整理する仕事、それと・・・俺の秘書として付き添ってもらう。」


「私は秘書なんてしたことありません。大丈夫なんでしょうか?」


「まぁ、仕事はそんなにないんだ。
あれ以上、叔母さんの店で騒ぎが大きくなったり、学校側が調べに来ると困ってしまうからね。」