享祐は苑加にその後の事情や、経済的な支援は次男の冬弥がすることになったことなどを説明した。

冬弥のことは苑加はよく知っている。

享祐のことを知りたかった冬弥が、一時足繁く苑加のところにやってきたからだ。


「冬弥さんが次男さんだったとはねぇ。
世間はせまいね。あはは。
でも、あの人がお兄さんになったのなら、敦美ちゃんにとってよかったんじゃない。
口はチャラい感じでも、イラストレーターとしてけっこう人気も出たようだし、自分の事務所も持ってがんばってるじゃないの。」


「ああ、冬弥はがんばり屋だ。
だから、ときどき迷惑だと思うことがあるけどね。」


「まぁそういわずに、協力してあげたら?
いずれは親戚になるかもしれないんだし。」


「は、はぁ?」


「敦美ちゃんだって、あんたが学校の先生なんかやっていなかったら、すぐにお嫁さんにでもできちゃうでしょうに。」


「だめだって。そんなことをしたらあっちの兄貴と同じじゃないか。
それにあの娘は、きっと俺がただの担任教師だから口をきいてくれてるんだ。」


「まぁ・・・ぷっ、あいかわらずなのねぇ。
久しぶりに、あんたのかわいい口調をきいたわ。

弱気になって本音をつぶやくときはいつも自分のことを『俺』っていうでしょう。
あんたはこの家では、いつも自分のことは『私』と意識して使ってるんだろうなってことはわかっていたけれど、たまにダダをこねたり、本音でグチを言ったりするときには『俺』になっちゃうんだから。
気がついてるの?」


「うっ・・・それは。」


「はいはい、わかりました。
敦美ちゃんを怯えさせては、元も子もありませんからねぇ。
敦美ちゃんは若いんですもの、じっくりお付き合いすればいいのよね。

でもぉ・・・孫の顔は早く見たいのが私の希望よ。
私はこの夏休みにここで孫をこしらえてもいいと思ってるのよ。ほほほ。」


「叔母さん!そういうことを彼女がいるところでは絶対いわないでくださいよ。
それに、私も彼女については知らないことがまだまだあるんですから。
頼みます、そっとしておいてください。」


「ええ、せいぜいがんばりなさいな。」


苑加はそういうと、そそくさと自室へと出ていってしまった。


「ふぅ・・・。叔母さんには全く、頭があがらないなぁ。
だけど、今の俺は生徒たちといるのが楽しいのは事実だから。

もちろん、高瀬といるのはいちばん楽しいと思える時間だけどね。」



翌朝、享祐が朝寝坊をして起きると、もう店はにぎわっていた。

店内をこっそりのぞいてみると、敦美がてきぱきと働いていた。


(あれ?店の中がどうもむさくるしい気がすると思ったら・・・男ばっかりじゃないか。)


「あれ、享祐さんどうしたんです?
お仕事はお休みなんですか?」


「いや、遅出なんだ。あの・・・おたまさん、いつもお客さんってこんなに男性客が多いのかい?」


「敦美ちゃんが来る前はあまり朝から来られる人はいなかったんですけど、敦美ちゃんが看板娘になってからは朝は男性ばかりですねぇ。

女性客はもともと午後からが多かったんですけど、今は敦美ちゃんと会話したい男性がほんとに増えちゃって、今のうちに儲けさせてもらわなくちゃね~!」


「いや、ダメだろ。どこの学校の娘か有名になってしまったら・・・いくらバイト許可してるとはいえ、学校でここが有名になってしまうじゃないか。」