夏休み直前の日曜日、敦美は享祐に連れられて、隣町へと電車で移動した。


駅にしてたった2つだったが、人々のにぎわいのある、ちょっと懐かしい気すらしてくる下町情緒のある商店街の入り口付近に由緒正しい感じの和菓子屋があった。


「甘味処 七橋って・・・あれ?
ここって先生の?」


「叔母さんの店なんだ。叔父さんは2年前に亡くなった。
ひとり息子がいたんだが・・・そいつも亡くなった。
もう唯一の親戚・・・かな。」


「えぇ!!なんか敷居が高いような・・・しかも先生のお身内のところなんて。」


「嫌なのか?」


「い、いえ、別に・・・私は。」


「享祐!働く前からお嬢さんを脅してもらったら困るよ!」


「あ、お・・・私はべつに脅してなどいません。
彼女がここが私の身内の家だということが気に入らないみたいだったので、ただ・・・。」



「ただ、何だい?
育てるのは私の役目ですよ。
それに、あんただってここで耐え切れずに出ていった人間じゃなかったっけ?」


「それは・・・。」


「まぁいいさ、過去のことは・・・で、お嬢さんの名前は?」


「はい、高瀬敦美と申します。
夏休み中、働かせていただけるということで、ほんとに助かります。
よろしくお願いします。」


「へぇ。礼儀正しいいい子じゃないか。
私は七橋苑加。享祐の叔母だよ。
かわいい娘だし・・・こりゃ、すぐに看板娘になるよ。」


「あ、叔母さん、彼女はウェイトレスじゃなくて菓子屋の方で。」


「うるさいねぇ。敦美ちゃんは甘味処の店内の方が似合うし、アルバイトなんだろ?
和菓子屋はね、職人の思いや連携が大切なの。
すぐに、はいお給金ってわけにはいかないところだよ。

もう、享祐は教え子にはそんな過保護に接してるのかい?」


「い、いえ・・・その・・・あ、いいです。」


「じゃ、早速テストもかねてやってもらおうかねぇ。
奥で先輩の姉さんたちがいるから着替えさせてもらいなさい。」


「はい。」


敦美は指示された通りに店の奥へと進んだ。
すると、40代くらいの女性2人と20代の男性がひとりいて、あとは敦美と同じようなバイトの女の子が2人いた。

着物姿にたすき掛けをして、店の前掛けと帽子をかぶって従業員たちの前に、敦美と苑加は立った。


「今日から夏休みのバイトちゃんとして来てくれた、高瀬敦美ちゃんです。
みんなよろしく頼みますね。

それにしても敦美ちゃんは着物を苦手にしてないね。
何かやっていたのかな?」


「はい。高1まではクラブも入っていませんでしたので、お茶とお花と書道をしていました。」


「まぁまぁ、いいところのお嬢さんなのね。
いえ、私は再婚した母の連れ子なので、最低限度はできないと叱られてしまうので、習わされました。」


「そ、そう・・・深い事情があるみたいね。
でも気にしなくていいわよ。享祐も似たような子だったから、自分の居場所だと思ってがんばってくれればいいの。」


「ありがとうございます。私、がんばります!」