寮の部屋にもどった敦美は机の上に置いてあった手紙を広げた。


『突然やってきて愛人になれなんて、無茶を言ってごめん。

よくよく考えたら、もともと会社は俺が始めた会社じゃないんだった。

父さんに相談して、どうしても俺の技量じゃ立て直しできない場合は素直に負けを認めて日本に帰ってくるよ。

もし、そうなっても敦美は笑って出迎えてくれるかい?


正直に俺の気持ちだけ言っておく。

俺は敦美が大好きだよ。もちろん妹としてではなく。

でも、敦美がこの人ならって思う人が先に現れたら幸せになってくれることを祈るよ。

それは俺も同じかもしれないけどね。


ただ、担任の七橋享祐は賛成できないな。

あいつはきっと敦美を不幸にする。

先生としてならいい恩師になるだろうけどな。


もう贅沢はさせてやれないが、俺もできる限りのことをがんばってくるから、敦美もしっかり勉強して卒業するんだ。

じゃあな。   直弥 』



敦美は手紙を手にしたまま頭を下げた。


「ごめんね。直弥兄様。
私もがんばって卒業するから、兄様もがんばって・・・。

だけど・・・どうして七橋先生が私を不幸にするのかしら?
先生としてならいいのよね。

なんか意味わかんないけど・・・。」


そして、机の上にはもう1つ白い携帯電話が置いてあった。

「あれ?これは冬弥兄様?」


『これがないとあちこち出張してる俺から連絡ができないからな、暗証番号とか書いてある書類は目を通してしまっておけよ。
それと、学校へは持っていくなよ。(それは知ってるよな。)

冬弥 』


「冬弥兄様・・・相変わらず、気のよくきくことだわ。
冬弥兄様がいなかったら、私・・・もうここにいなかったとこね。」


同室の先輩である佐上みづほが同学年の友人の部屋へ遊びにいっているのを確認した敦美はふと思い出したようにパソコンを起動させ、チャット室に入ってみた。


ジョディ「こんばんわ。ラッキーさんおられますか?」


10分ほど待ってみたが反応がなかったため、ログアウトしようとしたときだった。


ラッキー「ごめん、きてくれたんだね。」


ジョディ「ええ、じつは私、学校をやめて寮も出ていかなきゃならないとこだったの。」


ラッキー「ええっ!!!で、今はどこから?」


ジョディ「いつもの寮の私の部屋よ。
でも、もう遅いから、寝なきゃ。
同室の先輩ももうそろそろもどってくるしね。」


ラッキー「あのさ、君にきいてみたいことがあったんだけど。」


ジョディ「なあに?」


ラッキー「血のつながらないお兄さんのこと、どう思ってるの?」


ジョディ「大好きよ。それがどうかしたの?」


ラッキー「ちょっと気になったんだ。
君の話をきいてると、お兄さんが恋人みたいだなぁと思ってさ。
あ、俺・・・君に会えないのに変な質問してるよな。
こんなこと言ったら、俺がまるで嫉妬してるみたいだ。」


ジョディ「うふふ、ちょっとうれしいかも。
そうねぇ・・・下の兄はほんとのお兄ちゃんみたいに思ってるよ。
すっごく気がきいて、かっこよくて、つかみどころがなくて、面白いの。
でも優しくて、かばってくれて、理想のお兄ちゃんよ。」


ラッキー「じゃあ、上のお兄さんは?」


ジョディ「わからないの。だけど、私のこと大切にしてくれるし、家の責任をすべて背負っていてつらい立場なのもわかってるし。
できれば私が支えてあげられればいいのにって思うわ。
だけど・・・私、だめな子なの。大人になれなくて・・・かわいそうなことをしたの。」


ラッキー「どうしてだめな子?」


ジョディ「だって兄がいっしょにアメリカにきてほしいって私に頭を下げてきたのに、私は嫌だと断ったの。
あとで、じっくり考えたらね・・・ほんとに愛してたら、妻でも愛人でもそばにいて支えたんじゃないかと思って。
なのに、私、愛人になってくれっていわれて、『愛人』という言葉だけでビビッてしまって嫌って飛び出してしまったの。
きっと、兄は悲しかっただろうなって、今はそう思えるの。」


ラッキー「その判断は間違ってないよ。
君は女子高生なんだよ。
そこまで、好きな男のために人生を棒にふることなんてない。
彼は、それもわかった上でひとりでもどったんだと思う。」


ジョディ「そういってもらえると、ちょっと心が楽になるみたい。
ラッキーさん・・・またきいてもらってばっかりでごめんなさい。
じゃ、そろそろ。おやすみなさい。」


ラッキー「ああ、おやすみ。」