七橋に連れられて入ったのは、ある画材屋の倉庫だった。


「ここならわからないだろう。どうしたんだ?
それに、その服の乱れ・・・まさか・・・。」


胸元を押さえたまま泣きじゃくる敦美を落ち着かせるために、七橋はインスタントコーヒーを入れてもどってきた。


「ごめんな。ここはちょっとした俺の仲間の隠れ家でもあるんだが、こんなもんしかなくてな。
でも、ちょっと飲めば落ち着くだろう?
コーヒーはけっこう甘くして、クリームも入れておいた。
うまくはないだろうけど、あったかいものをお腹にいれると落ち着く。」


かなり甘いコーヒーを飲んだ敦美は、1つ深呼吸をしてから七橋に言った。


「私、アメリカに引っ越すんだって。
そして、直弥兄様の愛人として・・・同じ家に住むって・・・。
逃げ出そうとしたら、私にキスしてきて、私びっくりして、逃げてきてしまいました。

私、もう・・・高校に通えないです。
寮も出ていかなきゃいけないそうです。
ずっと授業料も直弥兄様が出してくれていたんです・・・だけど、こんなとこで高校をやめるなんて・・・。
私どうすればいいんですか?」


「高瀬、ちょっと話が見えないんだが・・・詳しく話してくれないかな。
学校に行く意思は本人が決めることだ。

事情によっては、卒業するまでは何とかできるかもしれないしな。」


敦美は家族の事情をポツリポツリと七橋に話していき、直弥が結婚すること、妻を愛せないから家に敦美を住まわせることなどをすべて話した。


「愛人なんて厄介だな。
高瀬も嫌なんだよな。

で、直弥さんのことはどう思っているんだ?」


「それは・・・わからなくなりました。
家族バラバラになってこれからがんばろうね・・・て決めたときは直弥兄様のことは大好きだったんだと思います。

だけど・・・愛人だなんて、相手の人のことを何も考えてあげないなんて・・・ひどすぎます。
政略結婚とか企業の結びつきとか、高校生の私にはぜんぜんわからないけど、だけど、愛人になんてなりたくない。
私は雅光高校を卒業したいから。

あっ!私・・・もう寮へは帰れないんだわ。
引き払って明日アメリカに行くって・・・。」


「家族ですぐ来てくれそうな人はいないのか?
せめて学校の手続きはストップをかけてもらわないと・・・雅光高校を卒業できないぞ。」


「えっと、携帯貸してもらえますか?
冬弥兄様に相談してみます。
どこにいるのかわからないけど・・・。」


そして、敦美は冬弥に七橋の携帯で電話をかけた。


「もしもし、冬弥兄様?
あのね、じつは・・・」


敦美は冬弥に直弥が今日本にいること。
明日、何もかも引き払ってアメリカに連れていかれることを話した。

「私、行きたくないの。日本で勉強したいの!
冬弥兄様、私の味方になって・・・お願い。
今どこにいるの?」


「おまえの後ろだよ。」


「えっ!?」


「お、おまえは冬弥!!って・・・まさかイラストレーターのToyaが高瀬の兄さんだったのか?」


「オッス、さっきはどうも。享祐。」


「どういうこと!?」