敦美は七橋に言われたとおり、美術室にやってきて、自己紹介をした。


「七橋先生からマネージャーを頼まれまして・・・きました。
高瀬敦美です。
絵は、ぜんぜん知識がなくてす、すみません・・・。」



「先生に頼まれて来たっていうだけなら、やめておいてくれないかしら。
前にいた家庭科部もやめたんでしょう。
長く続けられない人ならなおさら、歓迎できないわ。」


「それに、家庭科部をやめたのも家庭に問題があるからだってきいたわ。
そんな人は来てもすぐにやめちゃうんでしょ。」



「あ・・・皆さんは私には入ってほしくないんですね。
わかりました・・・じゃあ、マネージャーは他を当たってくださいと先生にお伝えください。」



敦美が部屋を出ようとしたときだった。
入り口から七橋が美術室に入ってきた。


「ちょっと待った!」
美を追求してるはずの美術部でそういう発言があるのは嫌だなぁ。
俺は考えもなしに、高瀬をスカウトしてきたんじゃないぞ。」



「じゃあ、どういう考えだったんですか?
イヤラシイ考えですか?
モデルをしてほしいとか?」



「おっ!それもいいな。
高瀬は両親や兄弟がそれぞれに用事があって分かれて暮らさなければならなくなったため女子寮生活をすることになったんだ。

みんなと暮らしていたヤツがひとりで生活し始めると時に、道をはずしかねないだろう?
そこに、マネージャーを失った我が部があったわけさ。

これはいいタイミングだと思わないか?
先に高瀬に相談をもちかけたら、がんばってみるといってくれたんだぞ。
みんなだっていろんな雑用をこなしてくれる人がいたら助かるだろう?」



「それはそうだけど・・・。」



「じゃ、決まりだ。我々は高瀬の高校生活を救い、高瀬は我が部を救ってくれる。
これで解決だ。

だけど、高瀬は美術部員で登録されるから、もちろん卒業までにいい作品は残してもらうつもりだ。
みんなも高瀬が困っていたら、協力してやってくれ。いいな。」



「七橋先生がそこまでおっしゃるなら、私たちはかまわないですが・・・。
いいかしら、沢井くん。」


「いいよ。中川さん。」


「高瀬、部長の中川と副部長の沢井だ。
マネージャーの細かい仕事は2人の指示に従えばいいからな。」


「は、はい。中川先輩、沢井先輩よろしくお願いします。」


「高瀬さんは2年生だから、1年の勧誘ウィークが終わって1年が入ったら、助手として2人で仕事をしてちょうだいね。
その方が、次の年にマネージャーさがしをしなくてすむからね。」


「あの、もし1年が入ってこなかったら?」


「誰も入らないなんてことはないのよ。この部はね・・・優秀だから。
知らない人は困っちゃうわ。」


「そんなにすごいんですか?」


「じつはけっこうすごいかもね。
全国1位とか2位とかが多くてねぇ。
美術部というと地味な響きだけど、この学校ではかなり胸張れると思うよ。

あれ・・・どうした高瀬?」



「やっぱり、私・・・部をやめておいた方が・・・。」