高瀬敦美。彼女は高校入学時から高瀬敦美になった。
以前は早川敦美という名前だった。


母親が高瀬隆造と再婚したので、連れ子の敦美は高瀬敦美になって高瀬家へとやってきた。



「親父が再婚したからって、俺たちはいつもの生活を変える気はないからな。
部屋と生活費は提供してもらえるが、甘えたこと考えてたら放り出すぞ!」


高瀬直弥・・・高瀬隆造の長男がそう言った。


「兄さんそんな言い方はないだろ!
彼女はただお母さんについてきただけで、罪人でも使用人でもないんだ。
これからは兄妹としてやっていくんだから、いきなり仲良くは無理でも嫌味っぽいことはいわないで普通にくらい話せないのか?

ごめんよ、金儲け以外興味のない兄でさ。
君はお金目当てでやってきたわけじゃないよね。」



敦美は怖くて声も出ず、ただ左右に首を強く振っていた。


「震えてる?怖いんだね。」


「わ、私は高校へ行かせてもらえて、ママのそばに居られたらそれで十分です。
それ以上は何も・・・お金なんて・・・お小遣いだったらバイトしますから。」



「よし、いい覚悟だ。
いいか、その言葉を忘れるな。
自分のことは自分でやるんだ。
未成年だから、母親にくっついていることはかまわないが、無駄づかいや、ハデな生活は許さないからな。
ちゃんと自分の立場をわきまえて行動しろ。
返事は?」


「は、はいっ!」


長男の高瀬直弥と次男の冬弥。

冬弥の話では、直弥は隆造の会社の後を継ぐために平社員から修行している。
そして自分の将来の責任についてひしひしと毎日何かしらを感じている様子なのだと。

冬弥はイラストレーターとして大学生の頃から有名になったほどの魅力的な感性を持っていた。
雑誌やイベントポスターで若者からの指示を受け、今ではラジオやテレビの仕事も入ってきていた。


初めてやってきた家の中では、冬弥はいつも兄の直弥から敦美を守ってくれる存在だった。

冬弥は友達やガールフレンドもたくさんいたが、恋人は作らない主義だといっては敦美を食事に誘ったりしていた。
敦美も、冬弥と食事に出かけるのは気楽で楽しい時間だった。



敦美の母の万須美は7年前に夫をクレーンが倒れてくる事故で亡くし、万須美が高校に進学する前に再婚した。
敦美は母の再婚を快く賛成して、この家にやってきたのだったが・・・。