早川彩澄の華麗なる日々


喚き散らしていた男を黙らせたのは、首元に添えられた一本のナイフ。


「お黙り下さいお客様」


ナイフの持ち手である早川は、完璧な営業スマイルを浮かべて一言述べた。


早川が持っているナイフは、男の元に料理を運んだ際に一緒に置かれた物だ。滑らかな動きで、行為に対して口を挟める隙も与えずに手に取った。そして、食材を切るという本来の目的から逸れた用途で使用している。


「お客様は先程『黙ってないで何か言ったらどうだ』とおっしゃっていましたが、私が何か言おうとするとそれに被せるように怒鳴っていたのはお客様です。ですのでこうしてお客様に黙って頂かないと私は喋ることが出来ません。

さて、お客様は料理が運ばれるのが遅いとご不満のようですが、まず只今の時刻は午後12時30分を回っておりランチタイムど真ん中であることをご理解下さいお客様。勿論それを理由にお食事の提供が遅れたなどと言い訳はしません。そもそも10分以内にお食事を提供した以上、遅いと罵られる謂れもありません。

お客様は5分も掛からないと思っていたのでしょうか。それでしたらご期待に応えられなかったことをお詫びいたしましょう。しかし、それが私の存在自体を罵倒する理由にはなりません」