そんな男に対し、早川は一つのお願いをする。
「お客様、当店は事を穏便に運べる交渉の場ではありませんので、どうか外でお願いします」
「は?何で俺?最初にデカイ声出したのそっちだろ?」
元が付くとはいえ「そっち」呼ばわりされた女性から、一瞬赤黒い炎が見えたような気がして、早川は女性に対し戸惑いを覚える。
そもそも(元)カップルは、店ではなく当人の間で声を荒らげており、店にとっては迷惑であるが有害とはならない。そして痴話喧嘩で、この場合では女性が何をするのか注意しなければならない。
以前、男の浮気による別れ話があった際、女が笑顔を見せながらフォークを手に傷害沙汰を起こしそうになったことがあった。その出来事を知っている早川にとって、カップルの痴話喧嘩というのは普段以上に緊張を強いられる。
けれどもそんな素振りは見せずに、早川は笑顔を浮かべながら二人の成り行きを見守ることにした。ただし、その笑みは控えめだ。



