ヒラリヒラリと目の前を一枚の花びらが舞って行く。
僕はなんとなしに、その花びらが地面に着地するまで眺めていた。
そっと指先が暖かくなって、横を向くと君の顔。
重なった君の手が微かに震えているような気がするのは、僕の気のせいなんだろうか――…?

「……桜が好きになるおまじない、かけてあげる」

君はそう言うと、タンポポの笑顔の中に、凛とした桜の花を薫らせて、僕のほっぺにキスをした。

一際大きな風が吹いて、花びらたちが舞い踊る。
まっかなほっぺで、ヘヘッとはにかんで笑う君の笑顔は、やっぱり桜に負けないくらい綺麗で可愛いタンポポの笑顔だった。


スクッと立ち上がり、タタタッと駈けて花見会場に戻って行く君の後ろ姿を、僕はほっぺをおさえてただ呆然と見送っていた。